アーティストの拠点からより面白い社会を作りたい!「栞や」からはじまる挑戦。 / 岸本 浩希

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こんぴらさん(金刀比羅宮)の参道の賑やかな雰囲気とは少し異なる、静かで落ち着いた通り道。そんなゆったりとした時間が流れる場所に、栞と本とカレーのお店「栞や」がひっそりと佇んでいます。

それぞれの “ひとり旅” 時間に寄り添ってくれる「栞や」では、体に優しいスパイスカレーやドリンクを楽しめるほか、店内にある栞やアート、本を眺めながら自分の内面と向き合う時間を作れます。

岡山県から移住してきた店主の岸本 浩希(きしもと ひろき)さんは、「栞や」を運営する傍ら、アーティストが琴平町に滞在しながら創作活動に取り組める「アーティスト&クリエイター in レジデンス」にも挑戦中。岸本さんの取り組み内容や新たな活動に挑戦された経緯、根底にどんな想いがあるのか伺いました。

栞や 店主・岸本 浩希
岡山県から夫婦で琴平町に移住し、栞と本とカレーのお店「栞や」を2018年12月にオープン。琴平町内ビルを改装し、アーティストの創作活動や販売ができる拠点「アーティスト&クリエイター in レジデンス」の立ち上げに取り組む。動画制作、ダンス、DIYなど作ること全般が好き。

始まりは旅とご縁。「栞や」のコンセプトに込められた想い

写真提供:栞や

ーー「栞や」は「人生という “ひとり旅” を彩る」という素敵なコンセプトを持っていますよね。そこにはどんな想いが込められているのかお聞かせください。

コンセプトには「人生のひとり旅を豊かにする活動をしていきたい」という想いが込められています。私が大学生の頃、旅が好きでバックパッカーをしていたのですが、旅先で出会う異なる文化から生まれる食や芸術を通して刺激を受け、新しい価値観に触れる体験をしました。旅した期間は自分で考えたり決断したりすることが多く、人生の縮図ともいえるさまざまな気づきや新たな感情と出会えたんですね。

あとから振り返ると、日々の生活も考えたり決断したりの繰り返しだなと思っていて。たとえば、ひとり旅をするのか、友達と旅に行くのか、その選択は自分にしかできない。皆それぞれが、人生という “ひとり旅” をしている旅人なんだと感じたことをきっかけに「栞や」のコンセプトが生まれました。

 

ーー旅の経験が今の活動に繋がっているのですね。岸本さんの原体験から生まれた「栞や」ではどんな過ごし方をしてもらいたいですか?

体に優しいスパイスカレーや「栞や」の絵をイメージしたドリンクを味わいながら、まずはほっと一息ついてもらい、絵や栞を眺めたり読書を楽しんだり。それぞれの時間をゆっくり過ごしてもらいたいですね。

店内では作家さんと協力して開発した栞を販売していて、一つ一つに絵そのものが表現している世界感、タイトル、キーワード、言葉が添えられています。

栞には “道標” という意味があるのですが、旅人が楽しみながら自分と重なる栞を選んだり、神聖な空気が漂うこんぴらさんの麓で栞を通して自分と向き合ったり。そんな時間を作ってもらえたら嬉しいですね。

移住者や地元の方との繋がりをきっかけに広がった新たな取り組み

写真提供:栞や

ーーこんぴらさんの麓にあるというのも神聖さを感じられて素敵ですね。もともと「栞や」の拠点を琴平町に作ろうと考えていたのですか?

香川県は昔から身近な場所でしたが、琴平町に拠点を持って活動をするイメージはなかったです。「栞や」を立ち上げる前は動画やダンスなど、場所にとらわれない仕事を行っていたので、一つの拠点を軸とする働き方に憧れていたんです。そんなときに奥さんの祖父母が所有していた空き家の存在を知り、琴平町への移住を決めました。

「栞や」を始めて2年くらいはお店優先で過ごしていたこともあり、地元の方との交流もなかったので友達もできなくて(笑)。地元である岡山県へ戻ろうかと考えていたんですね。

ですが1年ほど前から琴平町への移住者が増えたことで近い世代の方と知り合え、同じ趣味を楽しんだり一緒に仕事をしたりできるようになってきました。

 

ーー地域の方との交流が生まれたのは何かきっかけがあったのですか?

コロナになったことで観光客が減り、琴平町のみんなで協力して経済を回すための施策を考えるための勉強会や交流の場に誘ってもらったことがきっかけでした。「琴平バス株式会社」の楠木社長が町の事業者さんたちを紹介してくれて、お互いの事業を手伝いながら関わり続けています。

ほかにも新しく「栞や」が取り組んでいる、アーティストの創作活動や販売ができる「アーティスト&クリエイター in レジデンス」の拠点となるビルを楠木さんに貸していただいたり、町の方を中心にビルの解体作業を手伝ってもらったり、さまざまな角度から地域の方にサポートしてもらっています。

 

ーー少しずつ地域に溶け込みながら活動の幅を広げているのですね。琴平町のなかで、コラボすれば面白くなりそうだなと感じているものがあれば教えてください。

染匠 吉野屋」さんなど、琴平町の伝統的な技術・文化を受け継いでいる職人さんと一緒に何かを作りたいと思っています。拠点ができたらアーティストたちとも繋がってもらい、新しい取り組みをしたいですね。

琴平町は観光で成り立っている町なので、基本的にはよそ者に対しても寛容です。歴史的にもいろんな芸術や文化が栄えた町で、アーティストを支えてきたこともあって。何かを表現する取り組みは町の雰囲気に馴染むのではないかと思っています。琴平町と外の文化を混ぜて、今までにない面白いものが生まれたらいいですね。

 

アーティストが琴平町に滞在しながら創作活動に取り組める「アーティスト&クリエイター in レジデンス」

ーー新しく挑戦されている「アーティスト&クリエイター in レジデンス」はどんな場所にしようと考えていますか?

さまざまなアーティストやクリエイターが滞在・制作・展示・販売・交流ができる、新たなカルチャーの発信地として築いていきたいと考えています。具体的には「アーティスト専用住居」「シェアアトリエ」「展示販売・イベントスペース」「カフェ・バー」などをフロアに分けて作る予定です。

また作品を広く届けるためのイベントやプロモーション企画の立案・実施などで、アーティストのサポートも行っていきます。

 

ーー各フロアのイメージなどよければ詳しくお伺いしたいです。

拠点となるのはビルの2階〜6階部分ですが、まずは2階と3階から開設しようと考えています。3階はアーティスト用のゲストハウスか長く滞在できるシェアハウスにする予定です。同じフロアにアトリエも設置して、旅と滞在を繰り返しながら、創作活動ができる拠点にしたいですね。

2階は、3階で生まれた作品を展示販売したり、カフェでくつろいでもらったりできるような空間にしていく予定です。

4階から上についても少しずつ規模を広げて、アーティストたちが小さなお店を持てるようなテナントを入れたいですね。ものづくりだけではなく、ダンス、音楽や演劇など、無形のものを表現をする機能も増やせたらなと思っています。

写真提供:栞や

ーーとても面白い取り組みになりそうで今からワクワクしますね。新たな拠点作りへの挑戦に至った岸本さんの想いを教えてください。

自分を見つめて作品という形でアウトプットする、アーティストの活動をサポートしていきたい想いが根底にあります。

今までも「栞や」でアーティストと一緒に商品開発やイベント、ワークショップを小規模ながら行ってきました。ただ、もう少し範囲を広げたり、期間を長くしたりして、事業として進めていきたいという想いがふつふつと湧き上がってきて。人脈ができたこと、拠点が見つかったことで「よしやるぞ!」と新たな挑戦をすることを決めました。

 

作品が生まれ、もっと面白い社会になれば自分も楽しい

写真提供:栞や

ーーなぜアーティストをサポートしたいと思うようになったのですか?

「栞や」としてアーティストと共に仕事をするなかで、活動を継続するためにはどうしてもお金が必要だと感じるようになりました。アーティストからも「活動が仕事に繋がらない」「活動をする場所がない」という悩みを聞くことがあって。

過去にクリエイターとして、情報発信から経理に関することまで、すべて一人でやってきた経験を何か活かせるのではないかと思うようになりました。

 

ーー自身の経験からサポート側に回りたいと思うようになったのですね。活動に対する岸本さんのモチベーションはどこから生まれているのですか?

「栞や」に関わってくれた人に表現するきっかけを持ってもらえたら嬉しいし、そこから生まれた作品で社会が面白くなると思うと、私自身が楽しめるんです。

今までも店舗で絵を見たことで元気づけられ、何か新しいことに挑戦してみようと思ってくれた方も多くいます。「アーティスト&クリエイター in レジデンス」が誕生したら、何かしらのサポートができるし、本来生まれなかったかもしれない作品が世の中に出る可能性がある。いろんな作品が生まれて、もっと面白い社会にしていきたいですね。

 

広く表現者をサポートできる拠点を身近に作っていく

ーー「栞や」を運営する傍ら、新たな挑戦をされている岸本さんですが、今後のビジョンは何かありますか?

アーティストをサポートしていきたいという想いが強くあります。アーティストの友人やお世話になっている方が、継続して活動できるようになったらいいなとずっと思っていました。仕事になれば作品は生まれ続ける。お金にならないから活動が続けられなくなったら寂しいですよね。

たとえば「栞や」でスパイスを使ってカレーを作ることも表現の一つです。「アーティスト&クリエイター in レジデンス」というと、絵画や彫刻というイメージを持たれやすいですが、もう少し広い意味でサポートをしていきたいと思っています。

また将来的には琴平町を最初の拠点として、全国・世界にも展開していけるように挑戦していきたいですね。一人で活動してきたからこそ、仲間がいたらもっと楽しくできたのかなと思うことがあって。身近にアーティスト同士が交わり、繋がりが生まれる場所を作れるよう活動を続けていきたいと思っています。


スパイスを知るワークショップと想いを交換し合う本棚「旅する栞や文庫」

写真提供:栞や

誰かの人生の “ひとり旅” を彩りたい。そこから生まれた「栞や」と挑戦が始まったばかりの「アーティスト&クリエイター in レジデンス」。自身の原体験をきっかけに、同じ立場の人のサポートをしたいという強い信念を持つようになった岸本さんのお話を伺うことができました。「アーティストの拠点を通して社会に面白いものが生まれる環境を作りたい」と語る岸本さんの想いをぜひ琴平町で感じ取ってみてください。

「栞や」ではスパイスを使ったオリジナルガラムマサラ作りやチャイ作りを体験することができるほか、“本と栞が手紙とともに旅するように巡る、想いを交換しあう本棚”「旅する栞や文庫」も楽しめるので、訪問する際はぜひ交換したい本を持っていくことをおすすめします。あなたの “ひとり旅” を彩る素敵な時間を過ごしてみてはいかがですか?

取材・文:土肥 瑞希
編集:木村 紗奈江
撮影:近兼 涼佳
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【栞や 基本情報】
住所:香川県仲多度郡琴平町1063-2
TEL:070-2358-7907
営業時間:11:00~17:00
定休日:不定休(営業日カレンダー)
駐車場:3台
公式サイトURL:https://shioriya.net/
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