こんぴらさん(金刀比羅宮)のお膝元にある、ステーショナリーグッズ専門の「琴平文具店」。琴平町の歴史ある街並みとは一転して、白を基調とした一風変わった雰囲気が漂います。
約1,000パターンの組み合わせから自分好みの一冊を作る「kotonote(ことノート)」をはじめ、マスキングテープやレターセット、筆入れや御朱印長など、お店のコンセプトに合わせたセレクト商品を販売しています。店舗の開店に伴い、運営会社である「株式会社 地方創生」に転職し、東京から移住してきた伊藤 陽香(いとう はるか)さん。
地域に根ざした取り組みを行う伊藤さんに「琴平文具店」ができた理由や文房具の魅力、これから挑戦したいことについて聞きました。
商店街の空き店舗を活用した新たな試み
ーー「琴平文具店」ができた背景を教えてください。
「琴平文具店」はシティプロモーション事業支援を展開する「株式会社 地方創生」が運営しており、商店街の空き店舗を活用した新たな取り組みとして、2020年4月にオープンしました。会社の主な事業としては、地方自治体の移住促進や地域の魅力を発信する活動として、WEBサイト制作、イベントの企画・運営などを行っています。
ーー空き店舗を活用する取り組みの一つだったと。琴平町で文具店を始めた理由は何かありましたか?
観光客の方が琴平町に来て終わりではなく、その後も町の発信に繋がるきっかけを作りたいと考えていました。そのなかで「思い入れのあるオリジナル商品を作って、持って帰れるようにするのはどうか?」と社内で声が上がったんです。自分で作ったものを使ってもらったり、人に見せてもらったり。家に帰ったあともずっと琴平町のことがストーリーとして広がっていけばいいなと思い、オリジナルノートが作れる文具店を開くことになりました。
東京から琴平町に移住し、店舗の立ち上げから携わる
ーー琴平町はこんぴらさんのイメージが強いので、文具店は新鮮だなと感じました。
ほかにも四国が和紙の産地だったことも関係しています。香川県は近隣に和紙の産地があったことによって、うちわを作る技術が発達したと言われていて。紙にまつわる文化が昔からあったので、文具店にすれば面白いなと思ったことも理由の一つです。
日本には数多くの紙が流通していますが、その中から質感や開発された経緯が面白いもの、書くのに適した紙を6種類ほど揃えています。
ーー四国は紙にゆかりのある地域だったのですね。伊藤さんが店長になったのはどんな流れでしたか?
もともと私は新卒から3年間、今のグループ会社である人材派遣会社の営業部に所属していたのですが、「株式会社 地方創生」の社員のなかに、私が学生時代から知り合いだった方がいて。「今度琴平町に文具店が立ち上がるけど、開店準備を手伝ってみない?」と誘ってもらったんです。
文具が好きだったこともありますが、学生時代から地域活性化に興味があり、専攻していた農業の知識を活かした取り組みも行っていたんですね。その頃から地域に根ざした活動をしたいと思っていたので、東京から移住して店舗の立ち上げから携わることになりました。
「もっと日常に想像力を。」店舗作りで大切にしている想い
ーー伊藤さんが店舗作りで意識していることや大切にしている想いを聞かせてください。
「忙しなく過ぎていく日々だからこそ、文具を心地よく感じてもらいたい」「日常に想像力を感じて日々の暮らしが少しでも豊かになってほしい」。そんな想いを込めて店舗作りを行っています。
お店のコンセプトとして「もっと日常に想像力を。」と掲げているので、ここに立ち寄って想像力を働かせながら、ノートを作っていただきたいですね。ノートは内省する道具だと思っていて。持ち帰ってからも自分の気持ちを書き留めながら、琴平町で過ごした時間を大切に覚えていただきたいという想いでやっています。
ーー帰ってからも琴平町を思い出すきっかけを作れるのは素敵ですね。伊藤さんが活動を行う上でのモチベーションは何かありますか?
そうですね、お客さまに喜んでもらえることですかね。お客さまが楽しんでいる姿やノートのパーツ選びに悩んでいる姿を見ると、お店としてできて良かったなと思います。
色の配色の勉強をしたり、文具の配置にもこだわったり、お客さまに商品の面白さを伝える方法をいつも考えています。
1本100円のペンに詰まった細やかな技術
ーーお客さまを楽しませたい想いが強いのですね。ちなみに伊藤さんが感じる文具の魅力を教えてください。
ボールペン1本や消しゴム1個にしても、数百円の商品に細やかな技術が詰まっているのは魅力だと思っています。たとえば人気商品に「クリッカート」というカラーの水性ペンがあって、そのペンはキャップがないんですよ。インクを染み込ませているフェルト自体が空気中の水分を吸収して、インクが乾かないようにすることにより実現している商品なのですが、とても画期的だと思っています。
ほかにも「アクロ300」というボールペンは水性インクを追求して作られていて、油性インクなのに書きやすいんですね。新商品を選ぶときには文具の知識を得ながら、細やかな技術にも着目しています。
ーーなるほど。そんな視点で文具を見たことがなかったです。お店の商品はどのようにセレクトされていますか?
文具は使いやすさとシンプルさ、彩り、持っていて楽しいかどうかを重視しています。ほかにもカラーバリエーション、作っている方の経緯やストーリー、使用するシーンなど、おすすめできるポイントを自分のなかで落とし込んで選ぶようにしていますね。
お客さまに喜んでもらいたい気持ちはもちろん、作り手が想いを込めて世に出している商品なので、しっかり良さを伝えたいという気持ちもあります。
琴平町だけではなく香川全域で新たな取り組みに挑戦したい
ーー作り手の想いや文具のストーリーを知れるのは、お客さまも嬉しいと思います。これから「琴平文具店」として挑戦したいことや今後の伊藤さんの展望をお聞かせください。
お店としては、ワークショップをする予定で作ったスペースをうまく活用したり、作家さんにご協力いただいたりと、ポップアップの企画や琴平町に根ざした取り組みを行いたいです。
私自身としては琴平町で活動を続けるのはもちろんのこと、香川全体に遊びに来てほしい想いがあります。香川・琴平町には可能性を感じているので、琴平町と周辺の地域との連携にもう少し貢献できたらなと。隣のまんのう町では若い人たちが集まって新しいコミュニティーを立ち上げているので、自ら開拓しつつ地域の人との触れ合いを通して、何か一緒に取り組みができたらいいなと思っています。
ーー琴平町にはどのような魅力を感じていますか?
琴平町の一番の良さは人との近さですね。近所の方々と顔見知りにもなりますし、都会では味わえなかった豊かな時間を過ごせています。20〜30代の移住者もいろんな店舗を構えていますし、昔から積み重ねられてきた歴史や建物、町の風景・情景の雰囲気が良くて素敵な場所だなと思っています。
ーー小さな町ということもあって、人との距離が近い感覚があります。実際にお店がオープンしてから地元の方や観光客の方はどのような反応ですか?
地元の方は「オリジナルでものを作れるのは面白いね」と興味を持って立ち寄ってくれる方もいます。観光客の方は何か記念になるものを持ち帰りたいと、ノートを作ってくれる方がいらっしゃいますね。
みなさん楽しそうに表紙・紙・パーツを選んでいて。私たちが想像していなかった色の組み合わせで綺麗に作ってくださる方もたくさんいます。オリジナルでものを作るといっても全部選べるものは少ないと思うので、少しでも特別なお店になれたらなと。
ーー地元の方や観光客の方問わず、愛されるお店になるのではないかと感じました。最後に琴平町で注目している取り組みがあれば教えてください。
「ことひらまちじゅう図書館」という取り組みですね。琴平町には図書館がないのですが、子どもたちに学びの場や本を読む機会を提供したいということで、町の店舗に協力してもらい独自の本棚を作って、有志で提供している取り組みがあって。その本棚が町のあちこちで見られるので、時間があったら探してもらいたいなと思います。
「琴平文具店」では自分好みのオリジナルノートが作れます
柔らかで優しい雰囲気を漂わせながらも、芯のある言葉で話してくれた伊藤さん。作り手の想いを汲み取りながら商品の特徴や背景を伝えていく誠実さ、文具の魅力を丁寧にわかりやすく語ってくれた姿が印象に残りました。文具が好きな方も琴平町の思い出を残したい方も、この場所に立ち寄れば新たな旅の楽しみ方を見出せるかもしれませんよ。
「琴平文具店」では数十種類の表紙・裏表紙、6種類の紙、留具、箔押しの文字などを自分好みで選び、世界に一冊の「kotonote」が作れるほか、お店のコンセプトに合わせたセレクト商品を多数取り揃えています。琴平町の旅の思い出を綴るノートを作ってみませんか?
取材・文:木村 紗奈江
撮影:近兼 涼佳
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【琴平文具店 基本情報】
住所:香川県仲多度郡琴平町183
TEL:0877-58-8188
営業時間:13:00~17:00
定休日:火・水曜
駐車場:あり
公式サイトURL:https://kotohira-bungu.com/
公式FaceBook:https://www.facebook.com/kotohirabungu/
公式Instagram:琴平文具店(@kotonote_days)